恋は盲目とは誰が言ったか
うまく言うたもので私こと私めも
恋をすればそりゃ
盲目になるわけであれはそう数年前の冬
恋したメンズと初めて待ち合わせれば近づいてくるメンズ
今日は帽子かぶってるのね
とふ、と帽子に目をやれば
ハンチングをかぶっていたのですが
通常のかぶり方ではなく
つばを後ろ向きにかぶっており
私のピンク色に膨らむハートは
一気にざわつき始めました
そのあとのデートの内容よりも
ハンチングを後ろ向きにかぶっていたことを友人らに
一番に問いかければ
皆が揃って苦い顔で首をかしげます
中にはため息までもらす者もいました
しかしその時の私のふたつの目は見えているようで
見えていなかったのです
ハンチングを後ろ向きにかぶるというイケてなさが
いや、そんなこと信じたくなかったのかも知れません
私が女学生の頃ならまだしも
当時そんなかぶり方をする人など一人としておりませんでしたから
しかしその想いの強さは天を突き抜け私を閃かせました
彼は学生時代に野球部でキャッチャーをしていて
その頃の癖がいまだ直らず
どうしてもつばを後ろ向きにかぶってしまうのだわ
センスじゃなくて癖なのよ
きっとそうよ
そうに決まっているわ
この話を聞いた友人らの首は傾いたまま
戻ることはありませんでしたし
メンズに何のクラブ活動をしていたのか問うことは一切
いたしませんでしたので
真相はわかりませんが人生には時として
知らぬ方が幸せなこともあるのね
と学びました
そして彼の顔は思い出せなくとも
ハンチング帽の男
として今も私の中で生き続けているのです